■「知的資産」評価

恥ずかしいことを告白します。


会社の財務責任者(CFO)をやっていながら、株式投資や為替の見極めが非常に下手です。これまで個人で購入した株式や外貨預金で収益を上げたことはありません。極論すると自分が買った銘柄はその後ずるずると下落してゆき、損切りする気すらおきないレベルの含み損を抱えています。もともと資産運用には、生活に必要なお金だったり、すぐに使用使途のあるお金は入れて考えていないので、特に家計に大きな影響を与えているわけではないのですが、CFOとして会社のお財布を握る立場として、ビジネススクールファイナンス講義を担当するものとしては、本当に自信を失ってしまうわけであります。


言い訳がましくなりますが、一つの敗因は情報をあまりとらないで銘柄を決めてしまうこと。一応ネットサーフィンなどでその会社の情報などを見るには見ますが、あまり財務情報やIR情報などを参考にしたとしても、それは過去の結果だったり、すでに株価に織り込み済みだったり、あまり意味を感じない。証券会社からのレポートなどを見たとしても、その時点で私と証券会社の間には情報の非対称性があり、情報の質と量には圧倒的な差があってそれを埋める手立てもないものだから、結局その会社や製品や経営者が好き、だったり、感覚としていい印象を持った、というそんな理由で衝動的に銘柄を決めているのがいけないのではないか、と。


一応ファイナンス理論に基づいて説明すると、会社の価値というのはその会社が将来生み出すであろうキャッシュフローの合計額(より正確にいえば将来にわたって得られるフリーキャッシュフロー現在価値)であるので、現在のバランスシートがいいとか悪いとかよりも、今後その会社のキャッシュフローは増加するのか、低下するのか、を見るべきです。財務諸表に基づく分析というのは、過去の実績のトレンドの延長線上だったり、それは一つの手法ではあるけれども、イノベーティブな会社(特に「ベンチャー企業」と呼ばれるような、非連続な成長を遂げるような会社)にとってはあまり意味を持たないと感じています。


では何が意味を持つのか?結局、売上や利益、キャッシュフローという「結果」を生み出すための「要因」の評価なわけです。実際ベンチャーキャピタルなどイノベーティブな会社に投資をする会社は、そうした「要因」をより正確に判断するためにデューデリジェンスに力を注ぐわけですが、そういったことはあまり一般の投資家は見る機会がない。逆にいえば、経営者としても銀行や株主に対して、財務諸表やIRに必要とされた過去の指標だけ提示していても、本当にその会社を外部のステークホルダーに理解してもらうことは難しいといえます。


特に、最近は固定資産を活用して収益を上げる業態というのが少ないですよね。ネット企業に代表されるように、そもそも最初から資産は持たない。武器はあくまでも人の頭であって、その「知識」を活用した結果生まれてくる「組織の能力」や「オペレーションの精緻さ」や「ブランド力」といった要因こそが企業の強弱を決める。本来ならばこうした情報こそがディスクローズしてもらえれば、私としてももっと資産運用の効果が上がるのにな〜・・・なんてのは言い訳です。


そんなことを考えていたら、先日当社の非常勤役員を介して、株式会社アクセル船橋社長とお会いしお話をする機会をいただきました。アクセルはまさに先に書いていたような「業績を生み出す『知的資産』を可視化する」ことを専業とするコンサルティング会社であり、その手法論に磨きを上げてきた会社です。詳しい手法論は、アクセル社のホームページに詳しく書かれているのでご参考いただければと思いますが、知的資産の3要素、すなわち「人的資本」「組織資本」「関係資本」の強さ、課題をあぶりだしてくれるわけです。こんなのを財務諸表につけてくれると株主としてはその会社が将来キャッシュフローを成長させることができる潜在力を持っているのか、逆に経営者としてはステークホルダーに業績には表れない当社の真の姿を見ていただける機会を提供できるのでは、と、強く思いました。


現在は行っていないみたいですが、ネット上で専門ガイドによる情報提供を展開するオールアバウト社のIR資料にはこの「知的資産」報告書が掲載されています(http://corp.allabout.co.jp/ir/library/operation.htm)。この試みは投資家のみならず、取引先やこの会社に入りたいと思っている人間、社員にとっても有意義なものですよね。もちろん一方で競合企業に多くをさらしてしまうというリスクと背反するものでもありますけど・・・