■「ストーリーとしての競争戦略」の講演

6月12日の土曜日、神戸大MBAの小川先生のゼミにおいて「ストーリーとしての競争戦略」の著者である一橋大ICSの楠木先生による講演が開催されたので、小川先生にお願いしてゼミを聴講させていただく機会を得た。


楠木先生は実は私の学部生時代のゼミの指導教官であり、自分がビジネスの世界に入る際に多大なる影響を受けた人でもある。当時は先生はまだドクターを取得されたばかりの30歳前の若い研究者であり、ハタチそこそこの我々と一緒に遊んだものだ。そんなときの話を講義の中に織り交ぜながら、昔を懐かしみながら、楽しく講義を聴かせてもらった。


恩師が書いたからとお世辞を言うつもりは毛頭ないが、お世辞抜きに「ストーリーとしての競争戦略」はこれまで読んだビジネス書の中において、ベスト3の中に確実に入る名著である。とかくテンプレートやフレームワークの活用に終始される傾向の強い競争戦略を、また「静止画」的に表現される傾向の強い競争戦略を、よりダイナミックに、時間軸と論理性を持って、ストーリーとして描くべき、ということを500ページにわたる論理と実例とでもって示している。


この本を読んで感じていた疑問、すなわち「ここに載せられている『優れたストーリー』というのはあくまでも事後の検証結果であって、最初からぶれないストーリーが描かれていたのだろうか、また優れた『ストーリーテラー』は、どのような状況においても優れたストーリーが描けるものなのだろうか」というものについて、質疑応答の時間において議論をさせていただく機会を得た。


議論の結論は「確かに本に掲載している事例は事後での検証結果だが、優れたストーリーテラー(たとえばDeNAの南場さん)は、どのような状況の中においても骨太で強いストーリーを描こうとする意思を持っている。そのような能力はセンスによるものもあるものの、トレーニングで鍛えられる要素(良いストーリーをどれだけ意識的に自分の中に取り込むか、という日々の鍛錬)も大いにある」ということ。これには深く納得である。楠木先生自体がこのテーマについて現在研究中とのことなので、ストーリーテラーに焦点を当てた続編が生まれる日も来るかもしれない。


ストーリーは周りの人たちを巻き込む際の強い武器となる。社内においてももっと頻繁にストーリーが飛び交うような会社にしたいものだ。


お勧め度:★★★★★