■Young at Heart : How to Be an Innovator for Life

最近すっかりスタンフォード大の起業家講義のpodcastがお気に入りで、暇さえあれば聴いているのだが、この聴き方というもので多少苦労していた。音声だけのファイルというのは、英語がそれほど得意でない私の場合、しっかり集中しないと途中で何を言っているのか聴き逃してしまうことが多々ある。とはいえ、PCの前で聴くとついついネットをひらいてしまうし、寝転びながら聴いていると寝てしまう。
そんな中、集中しつつ「ながら聴き」ができるシーンを見つけることができた。スポーツクラブのトレッドミル(ランニングマシン)である。これなら交通事情に注意をそがれるジョギングとは違って、一定のペースで走りながら、頭はpodcastに集中することができる。体も鍛えリフレッシュしながら勉強もできる。一石三鳥ということで、かなりイイ!と思っているのだが、ご興味があればお試しあれ。


さて、今回の講師はIDEO社のTom Kelley氏。
http://ecorner.stanford.edu/authorMaterialInfo.html?mid=2054
Kelley氏については、数年前デザイン家電が日本に出現したころに、リアルフリート社に勤務する友人から紹介されて、Kelley氏の著書である「発想する会社!(原題:The Art of Innovation)」(http://amzn.to/bu857t)を読んだことで初めて知った。その著書の中身や豊富な事例に衝撃を受け、今でも自分の中での名著リストのトップに来る本なのであるが、その著者であるKelley氏もスタンフォード大学で講義をしていたということで、興味深く聴かせてもらった。


期待通りの講義で、特に個人レベルでイノベーションを生み出すための工夫や心構えを説いてくれた。単なる精神論でもなく、単なるテクニックでもなく、習慣や考え方に焦点を当てているため、非常に実践しやすい内容と思う。


特に印象的な言葉が、

(1)Thinking Like a Traveler(海外旅行をするような気分で考えろ)
(2)Treat Life as an Experiments(人生は実験を繰り返すことと考えろ)

という二つ。


海外旅行に行ってみるもの触るものが非日常だったりすると、脳はものすごく活性化している状態(Super Active)になっている。この状態は海外旅行のみならず、国内旅行でも新しい興味深いものに囲まれていると感じられることだと思うが、イノベーションを生み出すには、こうした状態を常に作っておくことが必要だということ。こういう視点で街に出て消費者や商品を観察すると、これまで発見されなかったことが見えてくるケースがある、と説く。実例では、子供用の歯ブラシを開発する際に、単に大人用の商品を小さく薄くするのではなく、観察によって子供は歯ブラシを「握る」(一方大人は指先で「つまむ」)ことを知り、グリップの太い歯ブラシをデザインしたところ、19ヶ月間全米でのベストセリング商品になった、というケースを取り上げている。



また人生は実験の場であるという話も興味深い。有名なエジソンの場合も、最近の例ではジェームス・ダイソンの場合も、商品化されるまでに何千回と失敗作を作り上げた、一種の実験の結果としてイノベーションが生まれたということ。イノベーションには実験が不可欠であり、失敗が伴うものである、という話をされる。


イノベーションを起こそうとするならば、海外旅行に行っているようなわくわくする状態で脳を活性化させ、実験を繰り返し失敗を繰り返しながら、成功モデルを模索していく。単なる精神論ではなく、イノベーションを生み出す「プロセス」であり、失敗はイノベーションの「必要悪」であるのであれば、それを許容する仕組みや文化を組織の中に埋め込んでおかなければならない。一体そういう仕組みや文化を内包している会社というのはどのくらいあるのだろうか?また自分たちの会社はそういう仕組みや文化を内包しているのだろうか?非常に本質的な問いかけと思われた。


お勧め度:★★★★

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法

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