■「kanji-jp」が面白いと思った理由

先日私のブログにコメントを下さった方が「kanji-jp」というサイトを運営している。書家の方々の書かれた漢字をデジタルコンテンツとして世界中に発信する、というビジネス。ものすごくシンプルなんだけど、単純に感覚として「面白い!」と思ったし、このエッセンスを応用すると、個人規模でもグローバルを相手にしたビジネスができるのかな〜、と思ったので、その辺のエッセンスがどのようなものかということを自分なりに考えてみた。


エッセンス①: グローバルという市場
アメリカに行く際、スーパーでもキオスクでも、クレジットカードが使えるときはクレジットカードで決済をしているが、その際サインを求められて漢字で自分の名前を書くと、店員さんから「クールね!それあなたの名前?私の名前を日本語でも書いてくれない?」なんてリクエストされることがけっこう頻繁にあったりする。そんなわけで、潜在的にも漢字というものを欲する環境が世界中にあると思う。市場はネットにつながる全世界中の人間と考えると、「書道」をアートとして鑑賞する日本国内市場に比べて人数的には数十倍の規模があると考えていい。


エッセンス②: カスタマイズ性
デジタルコンテンツなので、その後ダウンロードされたものが転送されたりするリスクは存在する。しかしながら、自分の名前を当て字で漢字にしてもらったり、自分の好きな英詩を日本語訳して書いてもらうなど、カスタマイズ性が非常に強いコンテンツになりうると思える。
そういえばかつてアメリカ勤務していた時の上司が来日した際、愛食家の上司へのお土産として日本の刺身包丁をプレゼントしたことがあったが、上司の名前(Rechard Beagle)を日本語で当て字にして「利茶度美来」と掘ってもらったことがあったが、「これはね、かつて日本に千利休という有名な茶道家がいてね、その名前の字なんだよ。それから名字のところは『The beauty will come』ということを表現しているんだ」なんてやったら、えらい喜んでもらえたことがあった。彼は大学の時に写真を専攻していたアート性の強い男だったのでなおさらだろうが、漢字の裏にある意味合いというものを教えてあげると喜んでもらえそうだ。


エッセンス③: フルフィルメントに関する手間
デジタルコンテンツなので、物理的な商品配送や税関といった手間やコストがかからない。世界中どこにいようと、サーバーにアクセスしてコンテンツをダウンロードするだけ。そこには原価なるものも発生しない。一方最も重要な決済はというと、Paypalの決済システムを採用することで、個人ベースでもリスクを抱えずに課金ができる。最近のECを取り巻く環境をうまく使えば、アドミニストレーションに係る部分は手間無く行うことが可能だ。


もちろんこのビジネスにおける課題というものも存在する。それは似たようなビジネスが乱立した時にどうやって勝ち抜くか、ということ。このビジネスが魅力的になればなるほど、同様のサービスを提供しようとする「書道家」が出てくる可能性が強くなる。そうしたコンテンツが乱立すればするほど、消費者側の選択肢は多くなるため、課金できるマージンも低くなってくるだろう。いくらフルフィルメントに係る手間が少なくなったとはいえ、それをまかなうだけの金額はもらうべき。


一つの解としては、乱戦を勝ち抜いてきたamazonやeBayや楽天といったビジネスモデルのように、標準的プラットフォームになるという方向があるであろう。つまり、kanji-jpには様々な書道家が参加しており、多くのバリエーションの中から消費者はピックアップできる、一方書道家にとって見るとそのプラットフォームに世界中の潜在顧客が集まってくる場にイージーに参加できる、そんな空間づくり。いわゆる商品を販売する「お店」ではなく、「市場」になることが一つの解になりそうだ。


いずれにせよ、世界に打って出る、新しいタイプのサービスとして、注目してみたい。